「帰ってきたクララの明治日記 超訳版」解説も、前シリーズと同じく解説を、お逸(勝逸子。勝海舟三女)とユウメイ(中国系アメリカ人初の正式な女医)に。
このシリーズも今回を含め残り2回。
今回はクララの結婚までの経緯について語ります。


【帰ってきたクララの明治日記 超訳版解説第16回】
「ここで一旦クララの日記は途切れ、次に再開した時には勝海舟氏の三男、梶梅太郎氏と結婚し、一児の母となっています」
「クララの人生の一番興味深いところが抜けちゃってるんだよねー、残念」
「わたくしとしては“実際には存在するのではないか”という疑いを捨てきれないのですけれどもね。“どの段階”で“なかったこと”にしたかは分かりませんけれど」
「……クララの日記を日本に持ってきた側も、それを翻訳した側も“身内”な私としてはノーコメントの方向で」
「ともあれ、それでは味気ありませんので、今回はクララの結婚までの経緯を補完して解説させて頂きますわ。
原典は有名な勝海舟氏の日々を綴った“海舟日記”からとなります。
“海舟日記”の明治19年、つまり1886年の4月9日付けの記録にこうありますの。
『目賀田、梅太郎の事につき内話、富田へ話さる由』
目賀田というのは、先週も紹介したお逸の旦那様である目賀田種太郎氏で、富田というのはこれまた何度となく登場してきて勝海舟氏の直系の弟子&アンナ先生の最初のキリスト教の生徒である、後の日銀総裁、富田鉄之助氏のことですわね。
実はこの時点で、クララは妊娠六ヶ月。
もはや隠すこともできず、おそらくクララが親友のお逸に打ち明け、そこから目賀田種太郎氏、富田鉄之助氏経由で、勝海舟氏に“現状”が伝わったと推察されています。
その五日後の14日の“海舟日記”には『目賀田、於米、梅太郎事につき内談』、翌15日『妻、梅太郎事につき、木下川並びに目賀田へ参る、同人所存承合為なり』とあります。
これだけだと何のことだか分からないので解説すると“於米”というのは、今までクララの日記でも“およね”という名でさりげなく何度も登場している、勝家の使用人――というより、イメージ的には“女執事”かしら? 
勝氏の五女である妙さんの育ての親だったり、木下川にある勝家の別荘――以前クララの日記でもここに遊びに行った記録がありましたけれど――の管理を任されていたりと、勝家の使用人の中では別格の扱いだったようですわね。
つまり、この記録は、クララの今後のことを民夫人、お逸のご亭主の目賀田種太郎氏、そして勝家の実務責任者のおよねさんも交えて相談し、クララは木下川にある勝家の別荘に引っ越して子供を産むことにした、ということですわ。
そして“海舟日記”の4月29日付けではこうありますの。
『富田鉄之助、梅太郎、クララの事、ウィレ(クララの兄ウィリィのこと)承知の旨』
つまりこの日、勝家とホイットニー家の家族間で事実上、クララと梅太郎君の結婚が認められたというわけですわね。
更に5月3日付けでは『富田、ウィリス妹クララ、梅太郎と婚礼、来ル八日に立結び候旨返答これある由、且、同所ヘクララ、暫く滞在致さす段なり』と結納の日取りが決まり、翌5月4日付けで、兄のウィリィに談じて「ホイットニーヘ、クララ、梅太郎の一件、談。口上書渡す。承服」、5月6日付けで『クララヘ百円遣わす』、7日付けでは『クララ、今日木下川へ引移る、疋田同道』と比較的スムーズに段取りが決まっていったようですわ。
ちなみにここでいう疋田というのは、お逸のすぐ上の姉の孝子さんの旦那様ですわね。
ともあれ、こうしてクララは木下川の勝家の別荘で新婚の世帯をもち、子供を産むことになりましたの」
「こうしてクララの日記をリアルタイムでも三年くらい読み解き続けていると感慨深いよねぇ、梅太郎とのこの結婚は。
本当にクララ、初めて会った頃から、梅太郎に対する評価だけは激甘だったし」
「……意志薄弱な駄目人間であることは十分以上に承知していたはずですけれどもね。
クララ、梅太郎君関係以外の日記を読む限り、本当はそういう人間が大嫌いな筈ですのに。
それでも関係者――梅太郎君のことを駄目人間としてさんざん扱き下ろしている勝家の人間も含めて――の証言が一様に“当時としては珍しい恋愛結婚だった”ということで一致しているというのは、本当に男女の仲というのは分からないもの、という見本のような事例ですわね」
「……前にも何度か書いたと思うけど“駄目な弟ほど可愛いものはない”という姉心理が働いたんだろうなあ、実の姉である私の云う台詞じゃないけどさ。
熱心なクリスチャンなクララが『出来ちゃった婚』になったところからもそれは推察されるわけで」
「で、案の定と言うべきか、そんな“駄目人間”が勝海舟氏亡き後、女房子供を養えるはずもなく、というのが次回クララの日記最終回後のお話となります」
「次週三年以上続いたこのシリーズも遂に最終回。皆様どうかお見逃しなく!」


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次週、最終回!