【第34回】高速道路無料化
民主党マニュフェストより・
【五つの約束】
〈4〉地域主権
高速道路の無料化、郵政事業の抜本見直しで地域を元気にする。


高速道路の無料化が何故地域主権のところに組み込まれているか不思議ではありますが、
本日のテーマはこちら。


そもそも現在の高速道路がどのように運営されているのかを見てみましょう。
全国の高速道路は六社の高速道路会社――東日本、中日本、西日本、本州四国、首都、阪神――で構成されています。特殊法人だった日本道路公団など旧道路四公団が2005年に分割民営化されて発足した株式会社です。
規模が大きいのは旧日本道路公団系の東日本、中日本、西日本の三社で、主に料金収入からなる売上げは年間約2兆円。六社の売上げの大半がこれです。ちなみに、首都、阪神の売上げは合わせて約0.5兆円、六社合わせての売上げは約2.6兆円。
一方、同六社の借金は現在40兆円。旧道路公団の放漫経営については弁明の余地が無く、これは莫大な負の遺産です。
分割民営化によって、この借金は日本高速道路保有・債務返済機構が引き継ぎました。
高速道路会社六社が2005年から年間2.6兆円の売上げから毎年返済し、45年で完済する計画が建てられました。
ここで重要なのは、返済にあたり、税金は一円も投入されないこと。
東日本、中日本、西日本に関して言えば、三社合わせて三十兆円の借金を返済するために、三社は年間1.6兆円の売り上げ分を充てています。
つまり国費投入して借金を返す代わりに、高速料金から借金を返しているのですね。
返済は現在のところ順調に進んでおり、あと41年で完済する予定です。

ところが民主党案の高速道路無料化が実施されると料金収入2.6兆円が入ってこなくなります。
渋滞が多い首都高速阪神高速では、当初からの無料化は実施しないので、その分の料金収入は得られます。
ですが、40兆円の借金のうち10兆円はこの首都高・阪神高速二社からの借金であり、こちらはこちらで返済しなければならなりません。
無料にする東日本、中日本、西日本三社の借金30兆円は、無料にするならば、国債に付け替えて誤魔化すしかありません。
その場合、毎年、元本5600億円、利子7000億円、計1.26兆円を、六十年間、税金で支払続けるしかないなくなります。
実は似たケースが既に存在し、民営化の後に残された国鉄の約37兆円の借金処理については、民営化11年後の1998年、結局残った24兆円、国民一人当たり20万円もの借金は毎年の支払いで元本4000億円、利子6600億円、合わせて1兆円以上となり、一般会計予算に流し込まれるこしになりました。
有り体に云えば、いま民主党がやろうとしていることは、JRの時の処理と同じで、国民の見えないところで、国民に借金を直接かけかえているだけなのです。
ちなみに東日本、中日本、西日本の主要三社の維持管理費用は毎年4000億円。
トロールや清掃コストなども料金収入がない以上、税金から支払われるしかなくなります。これも現在は高速道路を直接利用しない限り、一円も支払っていない国民の負担となります。当たり前ですが現在主要三社関連で働いている二万三千人の給与も税金で賄うことになります。


一方、高速道路無料化のメリットとして、民主党はその経済効果を喧伝しています。
完全無料化で最大2.5兆円の生活・企業活動コストが軽減され、それが消費や投資に回されれば、7.8兆円の経済効果がある、と。
しかし、その数字の根拠の詳細については「国土交通省の調査結果だ」というだけで、それ以上明かしていません。
しかしそもそも国土交通省はそんな調査結果を発表していないし、別件の調査を依頼された団体が「勝手に」そういう試算を出しているだけ。試算根拠も当然出てきていません。出てきているなら、是非それを見せて貰いたいものですが。
普通に考えれば、無料化すれば当然、渋滞が多くなり、物流が滞り、経済に悪影響を及ぼします。
これにより二酸化炭素の排出量が増えれば、温暖化ガス25%削減計画とどう両立されるのでしょうか?
何より無料化によって、より早く目的地に到着でき、時間を節約できるという高速道路自体の商品価値が減じてしまう恐れもあります。
無料化によって、人やモノの移動が活発化し、地方が活性化するとは限りません。
社会実験が当然必要となりますが、その結果明らかに無料化による弊害が多かった場合、一体どう判断するのでしょう?
政権公約だからといって、強行するつもりでしょうか?
タダを売り物にするのはポピュリズムでしかありません。
しかもその無料の背後には、多大な税負担が待っています。
ですから「高速道路無料化」という表現そのものが間違っているわけですね。
正確に「高速道路借金60年後延べ政策」と改名した上で、国民に信を問うたらどうでしょうか?
(続く)