1879年1月28日 火曜日

母の具合が悪いので、私はサイル夫人が使って大変よく効いた塗布薬の名前を教えて頂きに行った。

十二時半に着いたら、丁度昼食が始まるところで、私にも食べて頂くようにと云われた。

ブニンシェー夫人と赤ちゃんもみえていて、楽しい時を過ごした。

サイル先生は、いろいろ面白い話をご存じで、奥様に「すずめちゃんはどう?」などとお聞きになった。

ミス・ワシンシンはある女性のことについて、こんな話をした。

「男という男がみんな彼女の足元にひれ伏しかねない」

でもミス・ワシントンはご自分のお母様については以前こう云っていたのだ。

「全ての男性がこの女性を蹴飛ばしかねない様子だ」と。

それにミス・ワシントンはド・ボワンヴィル夫人に、私のこと和まだ子供で付き合う価値がないと云ったそうだ。

このことを詰問すると顔を赤らめていた。

赤らめて当然だ!

帰途に築地薬局で母のために油薬を買ってきた。

それから洋書店の十字屋に寄って、ウィリイに送る本を買った。

十字屋の番頭さんはお世辞が上手な上に、今英語を勉強している。

「短期間にどうやって完全な日本語を覚えたのですか? 大抵の外国人はとても日本語が下手ですのに」

この番頭さんに、以前ミス・エルドレッドが「英語と日本語の交換教授をしよう」と申し入れてきたことがあるそうだ。

「ところがですね」

が、彼によると彼女の方ばかり練習して、彼には少しも教えてくれないので厭になったということだった。

「ミス・エルドレッドは宣教師だから日本語が必要ですけど、番頭さんは英語をそれほど必要としないでしょう?」

私はそう云ったけれど、番頭さんとしては自分を犠牲にしてまで、他人のために尽くす気はないらしい。

帰途縁日で、綺麗な形に作られた白い八重咲きの桃の鉢植えとピンク色の姫椿と福寿草の鉢植えとを買った。